2015年4月 ダイアモンドオンラインに石橋哲氏記事掲載

たとえば目の前の机にペンがあったとする。必要ならばすぐ手に取って使えばよいのに、誰のものかを気にして「使っていいですか」と許可をとっているうちに複雑な手順ができあがり、それが制度と化し、やがて机の上にペンがあることを書類上で知っていても実際に見たことがない人がたくさん出てくる。そんなことが積み重なっていくうちに現場と意思決定する人との距離が離れ、判断が遅くなり、どんどん会社はおかしくなっていく――。

 当たり前のことを当たり前にできるように徹底することが事業再生の要諦であり、石橋さんが産業再生機構で学んだことだった。

常識を常識と思い込んだ途端、
思考停止に陥る
石橋記事

高校生たちとともに考える「わかりやすいプロジェクト 国会事故調編」にはこれまでに2000人以上が参加している

 産業再生機構で担当していた案件が終了したのに伴い、石橋さんは06年に独立。現在は複数の企業で監査役やアドバイザーとして計画策定や意思決定支援の業務を行っているのは前述した通りである。

 転職ではなく独立という形をとったのはなぜか。

「転職活動はしたんです。で、いろんな方にお会いして『こんな仕事をしてほしい』と言われましたが、その仕事が終わったらどうなるのだろうと思いました。うまくいったら更新してもらえますが、だめならそこで終わり。だったら使う側にとって、私を使いやすい形にするのがいい。それは雇用ではなく、いつでも私を切れる状態にすることです」

 幸い、シティバンク時代の顧客から「手伝ってくれないか」とオファーがあった。そこからは過去の顧客や一緒に仕事をした人のつながりから仕事を広げていき、いまに至る。国会事故調もそうだ。

 それにしても独立の決断は、長銀を辞めるときにさんざん悩んでいたのと同じ人には見えない思い切り方である。

「長銀を辞めてわかったのは一歩外に足を踏み出しても死にはしないことと、“常識”を“常識”と思い込んだ途端に思考停止に陥る、ということです。『なぜその“常識”に従うのか?』、別の言い方をすれば『本当にあなたがしたいことは何か?』という投げかけは、自分のキャリアであろうと事業の再生であろうと、あらゆることで考えなくてはいけない共通の問いです。スティーブ・ジョブズも同じことを言っていますよね」

 当事者意識を持ち、思考停止せず自分の頭で考えたうえで、やるべき当たり前のことを当たり前に実践していく。長銀の経営破綻という事件を機に磨かれていったそんな行動原理が、石橋さんの型にはまらない幅広い活躍につながっているように思えた。